応急処置から歯医者での治療、永久歯への影響まで徹底解説
子供が転んで歯をぶつけてしまった!そんな時、親としては気が動転してしまうかもしれません。しかし、適切な応急処置を知っていれば、落ち着いて対応できます。
この記事では、子供の歯が外傷を受けた際の応急処置から、歯医者さんでの治療、そして永久歯への影響までを詳しく解説します。万が一の事態に備えて、ぜひこの記事を参考にしてください。正しい知識を持つことで、お子さんの歯を 守りましょう。
まず落ち着いて!子供が歯をぶつけた直後の正しい応急処置
お子さんが歯をぶつけてしまうと、保護者の方にとっては冷静さを保つことが難しいかもしれません。しかし、まずは深呼吸をして落ち着き、冷静に行動することが非常に重要です。保護者の方の落ち着いた態度は、お子さんに安心感を与え、その後の適切な状況判断と対応へとつながります。
まず、最初にお子さんの全身状態を確認しましょう。特に以下の点に注意してください。
- 意識ははっきりしているか
- 頭や顔、特に目の周りなどに外傷の兆候がないか
もし、頭痛や吐き気、めまい、嘔吐といった症状がある場合は、歯よりも脳などへの影響が疑われます。この場合は、歯科を受診する前に脳外科などの医療機関を受診してください。
全身状態に問題がなければ、次に口の中の確認に移りましょう。出血の有無、歯が欠けたり折れたりしていないか、歯がグラグラしていないか、抜けていないか、あるいは歯の位置がずれていないか、唇や歯茎に傷がないかなどを順に確認してください。次の項目からは、それぞれの症状に応じた具体的な応急処置の方法について詳しく解説します。
口の中が出血している場合の対処法
お子さんが口の中をぶつけて出血している場合、まずは冷静に対応することが大切です。
口の中の出血に対する対処の流れを以下に示します。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1 | 冷静な対応:まず落ち着いて状況を把握します。 |
| 2 | 止血:清潔なガーゼなどを厚めに重ね、出血箇所を直接5~15分圧迫します。 |
| 3 | 注意点:うがいは控え、血の塊(血餅)を洗い流さないようにします。 |
| 4 | 受診判断:止血しない場合や出血量が多い場合は、速やかに歯科医院へ。 |
| 5 | 最終確認:出血が落ち着いたら、口の中全体を丁寧に確認します。 |
はじめに、清潔なガーゼ、ハンカチ、ティッシュなどを厚めに重ねて、出血している箇所を直接圧迫して止血しましょう。これは最も効果的な止血方法であり、止血の基本となります。出血部位にしっかりと当てて、指や手のひらで5分から15分程度、強く押さえ続けてください。
もしも、この圧迫を続けても出血が止まらない場合や、出血量が多いと感じる場合は、速やかに歯科医院を受診しましょう。
また、口の中にできた血の塊(血餅)は、傷口の回復を助ける役割があります。頻繁にうがいをすると、せっかく形成された血餅が洗い流されてしまい、止血しにくくなるため、うがいは極力控えてください。
出血が落ち着いたら、改めて口の中全体を確認します。確認する箇所は以下の通りです。
- 歯
- 唇
- 舌
- 頬の内側
これらの部位に切り傷がないか、丁寧に確認してあげてください。
歯が欠けたり折れたりした場合の注意点
お子さんの歯が欠けたり折れたりした場合は、まず、欠けた歯の破片を探しましょう。破片が見つかれば、歯科医院で再接着できる可能性があるためです。
見つけた破片は乾燥させないよう、牛乳や生理食塩水、または本人の口の中(唾液)に入れて保管してください。歯根膜細胞の生存率を保つことが、治療の成功につながります。
歯根膜の生存率を保つための保管方法と時間の目安
| 保管方法 | 歯根膜の生存率維持時間の目安 |
|---|---|
| 専用の保存液 | 約24時間 |
| 牛乳 | 約6時間 |
| 生理食塩水 | 約1時間 |
| 本人の口の中(唾液) | ※時間の目安の記述なし |
水道水は歯の細胞を傷つける恐れがあるため、破片を洗ったり浸したりするのは避けるべきです。もし破片に砂などが付着している場合は、牛乳か生理食塩水で10秒ほど優しくすすぐ程度にとどめましょう。
また、痛みがある場合は、濡らしたタオルなどで口の外側から優しく冷やすと、痛みが和らぐことがあります。歯が少し欠けただけで痛みがなくても、歯の神経が損傷している可能性も考えられるため、自己判断で様子を見ることはせず、必ず早めに歯科医院を受診することが大切です。
歯がグラグラしている(動揺している)とき
お子さんの歯がぐらぐらしている場合、舌や指で触らないよう、優しく言い聞かせることが大切です。不用意に触ると、歯の神経や歯根膜にさらなる損傷を与える恐れがあるだけでなく、自然に歯が固定されるのを妨げてしまう可能性があります。
食事の際は、患部に負担がかからないよう、柔らかいメニューを選ぶように心がけましょう。具体的には、次のようなものがおすすめです。
- おかゆ
- スープ
- ヨーグルト
- うどん
- 豆腐
- スクランブルエッグ
硬い食べ物や粘着性の高いものは、ぐらついている歯に余計な力を加え、状態を悪化させる原因となるため避けましょう。
また、歯のぐらつきが落ち着くまでは、激しい運動や顔をぶつける可能性のある遊びは避けさせ、できる限り安静に過ごすよう心がけましょう。
たとえ軽度のぐらつきに見えても、自己判断で様子見をするのは避け、できるだけ早く歯科医院を受診することが重要です。それは、見た目では確認できない歯根の損傷や、歯茎の内部の状態を、X線検査などで詳細に確認できるためです。歯科医院では、必要に応じて隣の歯と一時的に連結し、固定する処置が施されることもあります。
歯が抜けてしまったら?(乳歯と永久歯の違い)
お子さんの歯が抜けてしまった際、最も大切なのは、抜けた歯を乾燥させないことです。もし抜けた歯を見つけたら、歯の根の部分(歯根膜)を傷つけないよう、必ず歯の頭(歯冠)の部分を持って拾い上げてください。
もしそれが永久歯であれば、再植できる可能性があります。以下のステップで対応し、速やかに歯科医院を受診してください。
- 付着した汚れは、水道水で30秒以内を目安に、こすらず優しく洗い流しましょう。
- その後は、専用の歯牙保存液、なければ牛乳や生理食塩水に浸して乾燥を防いでください。
- これらの液体がない場合は、お子さん自身の口の中(唾液)に入れて保管することも有効です。
- 抜けてから30分以内を目安に、できるだけ早く歯科医院を受診することをおすすめします。
乳歯が抜けてしまった場合は、永久歯の芽を傷つけるリスクがあるため、基本的に再植は行いません。しかし、出血の有無や、他の歯への影響を確認するためにも、抜けた歯を持って歯科医院を受診してください。
抜けた歯が乳歯か永久歯か判断に迷う場合は、永久歯として扱い、乾燥させないよう保存して速やかに歯科医院へ向かいましょう。
歯が歯茎にめり込んだ・位置がずれたときの対応
歯が歯茎にめり込んだり、本来の位置からずれてしまったりした場合は、ご自身で歯を元の位置に戻そうとしたり、無理に触ったりすることは絶対に避けてください。このような行為は、歯の根や周囲の組織、さらに後から生えてくる永久歯に深刻なダメージを与える危険性があります。
まずは、口の中を清潔に保つため、刺激の少ないぬるま湯で優しくうがいをさせてあげましょう。ただし、強く「ぶくぶく」と行ううがいは、かえって出血や痛みを悪化させる可能性があるため注意が必要です。
歯がめり込んだりずれたりした状況では、専門的な処置が不可欠です。そのため、決して様子見をせず、できるだけ早く歯科医院を受診することは極めて重要です。歯科医院では、歯を正しい位置に戻す(整復)ことや、両隣の歯と固定するといった適切な治療が行われます。
お子さんが痛みを感じているようであれば、濡らしたタオルや冷やしたタオルなどで、頬の外側から優しく冷やしてあげましょう。氷などを直接当てると刺激が強すぎるため、避けるようにしてください。
こんな症状はすぐ歯医者へ!受診の判断基準とタイミング
お子さんが歯をぶつけてしまった際、保護者の方々にとって、すぐに歯科医院を受診すべきか、それとも少し様子を見ても良いのかという判断は難しいものです。見た目には大きな変化がないように見えても、「痛くないから大丈夫」と自己判断してしまうのは避けるべきです。実際、歯の根や歯茎の内部で損傷が起きている可能性があり、受傷直後に症状が軽くても、後から歯の色が変わったり、歯茎が腫れたりするケースも少なくありません。
具体的には、以下のような症状が見られた場合は注意が必要です。これらの症状は、歯の内部や歯茎に問題が生じているサインである可能性があります。
お子さんの歯の打撲後に見られる注意すべき症状
| 症状 | 受診の目安や注意点 |
|---|---|
| 歯の揺れやぐらつき | 見た目に変化がなくても、内部で損傷が起きている可能性を考えましょう。 |
| 歯の欠け | 軽微なものでも、放置すると後のトラブルにつながることがあります。 |
| 歯の位置のずれ | 噛み合わせに影響が出たり、周囲の組織にダメージを与えたりする懸念があります。 |
| 噛むときの違和感や痛み | 歯の内部での炎症や損傷が考えられます。 |
| 歯茎からの出血 | 歯茎や周囲の組織に直接的なダメージがあるサインです。 |
| 時間が経ってからの歯の変色 | 受傷後しばらくして現れることがあります。歯の神経が損傷している可能性を示唆します。 |
そのため、基本的には一度歯科医院を受診し、専門家による診断を受けることが推奨されます。ここでは、特に緊急性が高いと判断される症状や、受診を検討する具体的なタイミングについて詳しく解説していきます。
緊急性が高い!すぐに受診すべきサイン
お子さんが歯をぶつけた際、特に以下の症状が見られる場合は、迷わず速やかに専門医を受診することが大切です。
- 頭を強く打った可能性があり、意識が朦朧としている、吐き気、めまい、頭痛がある場合
- 口の中からの出血が15分以上止まらない場合
- 歯が完全に抜け落ちてしまった場合(特に永久歯)
- 歯が大きく欠けて神経が露出している、または激しい痛みがある場合
まず、歯だけでなく頭も強く打った可能性が疑われるケースです。意識が朦朧としている、吐き気やめまいがある、頭痛を訴えるといった症状が見られる場合は、歯科よりも脳神経外科や救急などの医科を優先して受診してください。命に関わる頭部外傷がないかを確認することが最優先となります。
次に、口の中からの出血がガーゼなどで15分以上圧迫しても止まらない場合も、緊急性が高いと判断されます。出血が続く状況では、感染のリスクや体への負担を考慮し、早急な処置が必要です。
また、歯が完全に抜け落ちてしまった場合は、特に永久歯であれば時間との勝負になります。適切な保存方法で抜けた歯を持参し、30分以内を目安にできる限り早く来院して下さい。これにより、再植の成功率を高められる可能性があります。
さらに、歯が大きく欠けたり折れたりして、内部の神経(ピンク色や赤色の部分)が見えている場合や、お子さんが激しい痛みを訴えている場合も、緊急性の高いサインです。神経が露出した状態を放置すると、感染や炎症が進行する恐れがあるため、24時間以内の受診が推奨されます。
数日後に現れる症状と受診を検討するタイミング
お子さんが歯をぶつけた直後は目立った異常が見られなくても、数日後から数週間後にかけて症状が現れることがあります。そのため、ぶつけた後も引き続きお子さんの様子を注意深く観察することが大切です。
特に注意すべき後発症状は以下の通りです。
- 歯の変色:赤みを帯びたり、時間の経過とともに黒っぽくなったりすることがあります。これは歯の神経(歯髄)の血管が損傷して内出血を起こしているか、神経が壊死している兆候かもしれません。
- 歯茎が腫れる。
- 歯茎にニキビのようなできもの(フィステル)ができる。
- 食事の際に痛がる。
- 噛み合わせに違和感がある。
これらの症状は、歯の神経が損傷し、歯根の先に膿が溜まっている可能性があるため、放置すると悪化する恐れがあります。痛みがなくても、このような変化に気づいた場合は、なるべく早く歯科医院を受診しましょう。専門医による定期的な経過観察は、お子さんの大切な歯を守る上で欠かせません。
ぶつけた歯の色が変わってきたけど、痛くない場合は?
お子さんが歯をぶつけた後、痛みを訴えなくても、数日〜数週間で歯の色が変化することがあります。これは、ぶつけた衝撃によって歯の内部にある神経(歯髄)が死んでしまう「歯髄壊死(えし)」が主な原因です。壊死した歯髄組織が腐敗し、その色素が歯に浸透すると、歯が茶色、灰色、あるいは黒っぽく変色して見えるようになります。このような変色は、神経が機能しなくなったサインであるため、放置は避けたい症状です。
「痛くないから大丈夫」と自己判断するのは大変危険です。痛みがなくても神経が壊死している可能性があり、そのまま放置すると、歯の根の先に膿が溜まる「根尖病巣」を引き起こすことがあります。この根の先の膿は、後から生えてくる永久歯の形成にも悪影響を及ぼす可能性があります。具体的には、「ターナー歯」と呼ばれる永久歯のエナメル質に形成異常が生じるリスクがあります。
歯の変色に気づいた際は、痛みの有無にかかわらず、できるだけ早く歯科医院を受診しましょう。その理由は以下の通りです。
- 痛みがなくても、歯の内部の神経が壊死している可能性があるため。
- 放置すると、歯の根の先に膿が溜まる「根尖病巣」を引き起こす恐れがあるため。
- 将来生えてくる永久歯の形成に悪影響(ターナー歯など)を及ぼすリスクがあるため。
レントゲン検査などで歯の内部の状態を正確に診断してもらい、適切な対応を検討することが大切です。
歯医者に行く前に準備しておくこと・伝えるべき情報
お子さんが歯を外傷した際に歯科医院を受診する場合は、事前に電話で連絡を入れることが非常に重要です。来院する旨と、お子さんの現在の状況を簡潔に伝えることで、歯科医院側も必要な準備ができ、来院後の診察がスムーズに進むでしょう。
また、歯科医師に正確な状況を伝えるために、以下の情報を整理しておきましょう。
- いつ、どこで、どのようにぶつけたか:受傷時の具体的な状況を把握することは、診断の助けになります。
- 現在の歯と口の中の状態:出血の有無、歯が欠けているか、ぐらついているか、抜けているか、位置がずれているかなどを確認しておきましょう。
- お子さんの全身の状態:頭を打っていないか、吐き気やめまいはあるかなど、歯以外の部分についても確認しておきましょう。
来院する際は、健康保険証と子ども医療費受給者証を忘れずに持参してください。もし、歯が欠けたり抜けたりしている場合は、その歯や破片を乾燥させないことが大切です。見つかった歯は、牛乳、生理食塩水、または専用の歯牙保存液に入れて持参してください。汚れが付着している場合は、水道水で強くこすらず、軽く流す程度にとどめましょう。適切に保存することで、歯を元の位置に戻す(再植する)可能性が高まります。
子供の歯の外傷で起こりうること|症状別の見分け方
お子さんが歯をぶつけた際、外見上は些細な傷に見えても、その影響は多岐にわたることがあります。外傷には、打撲直後に症状が現れるものもあれば、時間が経ってから初めて気づく変化が現れるものもあり、その種類は様々です。
ここでは、代表的な外傷として以下の症状の概要を解説します。
- 歯が欠ける、あるいは折れる(破折)
- 歯がグラグラする、または位置がずれる(亜脱臼、脱臼)
- 歯が歯茎にめり込む(陥入)
- 時間が経ってから歯の色が変わる(変色)
例えば、歯が歯髄(神経)まで割れているような破折や、歯根膜が完全に断裂して歯が抜け落ちる完全脱臼、あるいは一部断裂で歯が少し抜けかかっている亜脱臼では、その後の治療方針や緊急性が異なります。これらの症状を保護者の方が早期にある程度見分けられることは、適切な応急処置につながるだけでなく、歯科医院でのスムーズな診察と、その後の最適な治療方針の決定にも役立つでしょう。
歯が欠ける・折れる(破折)
お子さんの歯が、ぶつかるなどの衝撃で欠けたり折れたりすることを、歯科の専門用語では「破折(はせつ)」と呼びます。破折は、主に歯の表面部分が欠ける「歯冠破折」と、歯の根元部分が割れる「歯根破折」の2種類に分けられます。
歯冠破折は、硬いものを噛んだり、強い外力が加わったりした際に起こりやすいものです。欠け方は、ごく小さいものから、歯の内部にある神経(歯髄)にまで達する深刻なものまで多岐にわたります。
以下に、歯冠破折の主な原因と欠け方の多様性をまとめます。
歯冠破折について
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な原因 | 硬いものを噛んだ時、強い外力が加わった際 |
| 欠け方の例 | ごく小さいものから、歯の神経(歯髄)に達するものまで |
破折による主な症状は以下の通りです。
- 歯が欠けてギザギザしている、あるいは一部が失われている(見た目の変化)
- 冷たいものがしみる
- 触ると痛みを感じる
- 食事の際に違和感がある
- 特に歯の神経まで破折が及んだ場合は激しい痛み
痛みがなく小さい欠けであっても、放置するとそこから虫歯になったり、細菌が侵入して後々大きな問題を引き起こしたりする可能性があります。特に歯根破折の一種である「垂直破折」は、細菌の侵入を招きやすいと言われています。
そのため、軽度に見えても自己判断はせず、速やかに歯科医院を受診して専門的な診断を受けることをお勧めします。なお、抜歯や感染処置といった基本的な治療には保険が適用される場合もありますが、破折した歯をそのまま使用する接着保存治療は保険適用外となるケースが多いことにご留意ください。
歯がグラグラする・位置がずれる(亜脱臼・脱臼)
お子さんの歯に強い衝撃が加わると、歯を支える歯根膜という組織が損傷し、歯がグラグラしたり、本来の位置からずれてしまったりすることがあります。この状態を「歯の脱臼」と呼び、その程度によって「亜脱臼」と「脱臼」に分けられます。
「亜脱臼」は、歯がグラグラするものの、歯の位置のずれはごく軽度な状態を指します。一方、「脱臼」は、歯が明らかに傾いたり、歯茎にめり込んだり、あるいは歯が浮き上がったりして、元の位置から大きくずれた状態です。このような外傷は、転倒やスポーツ中の衝突、顔面へのボールの打撲などが主な原因で起こりやすいとされています。
保護者の方が確認できるサインとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 指で軽く触れると歯が動く
- お子さんが「噛み合わせると痛い」「当たって噛めない」と訴える
- 見た目で歯並びが明らかに変わっている
これらの症状が見られた場合は、自己判断で無理に歯を元の位置に戻そうとすることは絶対に避けてください。不適切な操作は、歯の根や神経にさらなる損傷を与える危険性があります。異変に気づいたら、お子さんの歯に触らず、速やかに歯科医院を受診しましょう。
歯がめり込む(陥入)
お子さんの歯が外傷により歯茎の奥にめり込み、見た目には歯が短くなったように見えたり、完全に歯茎に埋もれて見えなくなったりする状態を「陥入(かんにゅう)」と呼びます。
陥入は、乳歯と永久歯とでその後の経過が異なるのが特徴です。乳歯が陥入した場合、多くは自然に元の位置に戻って再び生えてくる「再萌出(さいほうしゅつ)」を期待できます。これまでの研究では、洗浄と投薬のみで経過観察した場合、再萌出した歯が歯髄病変を起こす頻度は低いことが示唆されています。ただし、めり込んだ乳歯の根が、歯茎の奥にある永久歯の芽(歯胚)を傷つける可能性も否定できません。その結果、将来生えてくる永久歯の色や形、生える方向などに影響が出ることがあります。
一方、永久歯が陥入した場合は、自然な再萌出は期待しにくく、多くの場合、矯正治療で引っ張り出すなど、専門的な処置が必要となります。
いずれの場合も、ご自身の判断で歯を引っ張り出そうとしたり、無理に触ったりすることは、さらなる損傷を招く危険性があるため、絶対におやめください。陥入が疑われる場合は、必ず速やかに歯科医院を受診し、レントゲン検査などで正確な診断を受け、適切な経過観察や治療方針について専門医とご相談ください。
時間が経ってから歯の色が変わる(変色)
お子さんが歯をぶつけた後、すぐに変化が見られなくても、時間が経過してから歯の色が変わることがあります。これは、歯への衝撃により、歯の内部にある神経(歯髄)の血管が損傷して内出血を起こすことが主な原因です。この内出血が歯の組織に染み込むことで、外から見て歯の色が変わって見えるようになります。
変色には、いくつかのパターンがあります。
歯の変色のパターンと原因
- 一時的にピンク色に見える場合:歯髄内での内出血が透けて見えている可能性があります。
- 時間の経過とともに灰色や黒色に変わった場合:歯の神経が壊死してしまったサインであることが多く、壊死した歯髄の組織や血液中の鉄分が象牙細管に入り込み変性することで、歯が変色すると考えられます。
このような変色は、たとえお子さんが痛みを訴えていなくても、歯の内部で異常が進行している可能性があります。放置すると、歯の根の先に膿が溜まる「根尖病巣」などの問題を引き起こす恐れがあるため、注意が必要です。そのため、歯の色に異変を感じたら、痛みの有無にかかわらず、できるだけ早く歯科医院を受診し、専門家による診断を受けるようにしましょう。適切な対応で、お子さんの大切な歯を守ることができます。
歯医者さんではどんな治療をするの?外傷の種類別・主な治療法
お子さんの歯が外傷を受けた際の歯科医院での治療は、損傷の程度、種類、乳歯か永久歯かといった歯の状態、そしてお子さんの年齢によってさまざまです。治療の主な目的は、できる限り歯を保存し、お子さんの将来的な歯の健康を守ることです。具体的には、痛みや感染の拡大を防ぎ、何よりも、後から生えてくる永久歯への悪影響を最小限に抑えることに重点を置きます。
主な治療法として、以下のような例が挙げられます。
- 外傷が歯の神経(歯髄)まで達している場合:感染を防ぐための根管治療を行い、歯の保存を試みます。
- 歯が欠けた場合:詰め物やかぶせ物で修復します。
- 歯がグラグラしている場合:両隣の歯と固定して安静を図り、回復を待ちます。
- 歯が抜けてしまった場合(特に永久歯):条件が良ければ再植することも可能です。
この後の項目では、前章「子供の歯の外傷で起こりうること」で解説した外傷の種類ごとに、具体的な治療法を詳しくご紹介します。
欠けた歯を元に戻す治療(再植・接着)
お子さんの歯が欠けたり、根元から抜けてしまったりした際は、歯科医院では歯の保存を目的として、主に「接着治療」や「再植」といった治療法が検討されます。
まず、歯が小さく欠けた場合について説明します。もし欠けた歯の破片が見つかった場合、歯科用の接着剤を用いて元の位置に修復できる可能性があります。最新の歯科用接着剤は、歯と補綴物(ほてつぶつ:詰め物やかぶせ物)を分子レベルで強固に結びつけ、高い接着力で外れにくいのが特徴です。一方、欠けた破片がない場合や小さすぎる場合は、コンポジットレジンという歯科用プラスチック材料で欠損部分を補い、自然な見た目に修復します。
コンポジットレジン治療の費用目安
| 費用区分 | 1本あたりの費用目安 |
|---|---|
| 保険適用 | 1,000円〜3,000円程度(3割負担) |
| 自由診療 | 10,000円〜30,000円程度 |
コンポジットレジンによる治療は上記の費用目安で受けられますが、欠けたり、剥がれたりするリスクも伴うことがあります。
次に、歯が根元から完全に抜けてしまった(脱臼した)場合についてです。特に永久歯の場合、抜けた歯を元の場所に戻す「再植」という治療を行うことがあります。再植が可能となる条件は、歯が抜けてから歯科医院を受診するまでの時間や、抜けた歯の表面にある歯根膜(しこんまく:歯と骨をつなぐ組織)の状態が良好であるかどうかが重要です。一方、乳歯が完全に抜けてしまった場合は、後続の永久歯の成長を妨げるリスクがあるため、基本的に再植は行いません。
歯の神経を守る・処置する治療(根管治療)
お子さんが歯を強くぶつけると、その衝撃で歯の内部にある神経(歯髄)がダメージを受けたり、歯が欠けて神経が露出したりすることがあります。このようなケースでは、神経を保護する治療や、感染を取り除く治療が非常に重要です。
神経の露出が軽度の場合、「覆髄法(ふくずいほう)」という治療が行われます。これは、特殊な薬剤を用いて神経を保護し、歯の機能を維持することを目指す治療法です。水酸化カルシウムやMTAセメントなどの薬剤が用いられ、特にMTAセメントを使用した場合、80〜95%の高い成功率が報告されています。
一方、神経が死んでしまった(失活)場合や感染を起こしてしまった場合には、「根管治療」が必要になります。この治療は、汚染された神経を取り除き、根管内を清掃・消毒した後に薬剤を詰める処置です。乳歯は永久歯に比べて根が短く細いため、それぞれの歯の状態に合わせた方法で治療を進めます。
これらの治療を怠ると、以下のような問題を引き起こす可能性があります。
- 歯の根の先に膿が溜まる「根尖病巣」が発生する。
- 後から生えてくる永久歯に悪影響が及ぶ。
お子さんの大切な歯と将来の健康のために、歯科医師の診断に基づき、適切な処置を受けることが非常に重要です。
歯の位置を戻し固定する治療
お子さんの歯がグラグラしたり(亜脱臼)、本来の位置からずれてしまったり(脱臼)、あるいは歯茎の奥にめり込んでしまったり(陥入)した場合、歯を元の正しい位置に戻し、安定させるための治療が必要です。
まず、歯科医師は指や専用の器具を使い、ずれた歯を元の位置に戻す「整復(せいふく)」という処置を行います。この処置は、歯根膜をはじめとする歯の周囲組織への負担を最小限に抑えながら、慎重に行う必要があります。
整復後は、再び歯が動かないように、隣接する健康な歯とワイヤーや接着剤を用いて連結し、「固定」します。この固定期間は、歯の周囲の組織(歯根膜など)が回復し、歯が再び安定した状態になるのを待つことが目的です。具体的な固定期間の目安は以下の通りです。
歯の固定期間について
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 期間目安 | 一般的に3〜4週間以上(損傷の程度により2週間程度の場合もあります) |
| 目的 | 歯根膜などの周囲組織の回復、歯の安定化 |
固定期間中は、患部に過度な負担をかけないよう、特に注意が必要です。以下の点に留意し、歯周組織が回復し、歯がしっかりと安定するまで無理のない生活を送るようにしてください。
- 硬い食べ物は避け、柔らかいものを中心とした食事を心がけましょう。
- 治療中の歯を舌や指で触ったり、揺らしたりしないよう、お子さんに優しく言い聞かせることも大切です。
経過観察と定期的なチェックの重要性
お子さんの歯の外傷治療が完了しても、それで完全に安心できるわけではありません。治療後も、歯の神経の状態や根の先の炎症など、目に見えない問題が後から現れる可能性があるため、長期的な経過観察が極めて重要です。実際、根の治療の成否を判断するには、治療後すぐにわかるものではなく、おおよそ6ヶ月から12ヶ月の期間を要すると言われています。この期間、治療した歯に違和感や鈍い痛みが回復過程で生じることもあります。
特に乳歯の外傷は、後に生えてくる永久歯に影響を及ぼすことがあります。乳歯の外傷が永久歯に及ぼす可能性のある影響は以下の通りです。
| 影響の種類 | 具体的な症状 |
|---|---|
| 歯の色・見た目 | 白斑(永久歯の一部が白く濁る)、歯の色の異常 |
| 歯の質・形成 | エナメル質の形成不全 |
| 歯根の成長 | 歯根の形成障害(短根化)、歯根の形態異常 |
| 生え方・位置 | 永久歯の生える方向の異常、歯の形の異常 |
これらの問題がないか、長期的に確認していくことが大切です。
歯科医院での定期チェックでは、レントゲン撮影だけでなく、視診や触診を丁寧に行い、歯やその周囲の骨に異常がないかを詳細に確認します。お子さんの症状が落ち着いているように見えても、自己判断で通院を中断するのは避けるべきです。気になるからといって、患部を不必要に触ったり叩いたりすると、感覚が過敏になる恐れもあります。歯科医師の指示に従い定期検診を受け続けることが、お子さんの大切な歯と将来の口腔健康を守る上で極めて重要です。
乳歯の外傷が永久歯に与える影響とは?
乳歯の根のすぐ下には永久歯の芽(歯胚)があるため、乳歯に強い衝撃が加わると、永久歯の成長や生え方に影響を及ぼす可能性があります。具体的には、以下のような影響が考えられます。
- 永久歯の色や形に異常が現れる「ターナーの歯」(エナメル質形成不全や変色)
- 永久歯が正しい位置に生えず、歯並びが悪くなる
実際に、乳歯の外傷を負ったお子さんのうち約33.2%で永久歯に後遺症が確認されており、その多くは軽度なエナメル質の変色でした。また、永久歯が生える時期に異常が見られるケースは7.6%で報告されており、重度の場合には永久歯が全く生えてこない(埋伏歯)といったリスクも考えられます。
ただし、すべてのケースが深刻な影響につながるわけではありません。永久歯への影響はすぐに明らかになるものではなく、永久歯が生えてくる段階で初めて気づくことも少なくありません。お子さんの大切な歯を守るためにも、歯科医院での定期的な経過観察が非常に重要です。
後から生える永久歯の歯並びへの影響
乳歯は、単に一時的な歯というだけでなく、後から生えてくる永久歯が適切な位置に生えてくるための「場所取り」という重要な役割を担っています。乳歯の根のすぐ下には永久歯の芽(歯胚)が存在し、これらが近接しているため、乳歯に外傷が加わると、後続の永久歯にさまざまな影響を及ぼす可能性があります。
外傷により乳歯が本来の時期よりも早く抜けてしまうと、その空いたスペースに両隣の歯が倒れ込んでくることがあります。このため、永久歯が生えるスペースが狭まり、永久歯が正しい位置に生えられなくなり、叢生(ガタガタの歯並び)といった不正咬合の原因となることがあります。実際、乳歯の早期喪失の有病率は21.8%で、不正咬合の発生率が2.54倍に増加するという報告もあります。
また、外傷によって乳歯の根の位置がずれると、顎の中で成長中の永久歯の芽(歯胚)を圧迫してしまうことがあります。これにより、後続の永久歯に以下のような影響が生じる可能性があります。
- 永久歯が生えてくる方向が変わり、歯並びが乱れる。
- 後続の永久歯の歯冠形態、歯質形成、石灰化に異常が生じる。
- 乳歯の根が顎の骨と癒着(アンキローシス)することで、乳歯が抜けずに残り、永久歯が横から生えたり、埋まったまま萌出できなくなったりする。
永久歯の色や形に異常が出る可能性
乳歯の根のすぐ下には、将来的に生えてくる永久歯の「芽(歯胚)」があります。そのため、乳歯に強い衝撃が加わると、その衝撃が歯胚に伝わり、永久歯の形成に悪影響を及ぼす可能性があります。
乳歯への衝撃によって永久歯に現れる可能性のある異常は以下の通りです。
| 異常の名称 | 特徴 |
|---|---|
| エナメル質形成不全 | 永久歯のエナメル質がうまく作られず、歯が白く濁ったり、黄色や茶色に変色したりします。歯の表面に斑点、凹凸、または穴が見られることがあります。 |
| ターナー歯 | エナメル質形成不全により、永久歯の形が変形してしまう状態を指します。 |
これらの影響は、永久歯が生えてくるまで見た目では判断できないことがほとんどです。そのため、乳歯の外傷の事実を母子手帳などに記録し、永久歯が生え変わる時期に歯科医師へ相談することが重要です。もし永久歯にエナメル質形成不全やターナー歯などの異常が見られた場合でも、コンポジットレジンによる詰め物や、必要に応じて被せ物などで見た目を改善する治療法があります。まずは専門の歯科医師に相談し、お子さんの歯の健康と将来について具体的なアドバイスを受けることをお勧めします。
永久歯が正常に生えてこないリスク
乳歯の根のすぐ下には、次に生えてくる永久歯の「芽(歯胚)」が存在します。そのため、乳歯に強い衝撃が加わると、この永久歯の芽が傷つき、永久歯の萌出(ほうしゅつ:歯が生えてくること)に異常が生じるリスクがあります。
具体的なリスクは以下の通りです。
- 萌出遅延: 永久歯が生えてくるのが通常よりも大幅に遅れる状態です。乳歯の外傷を受けたお子さんでは、約7.6%に永久歯の萌出時期異常が認められ、その多くが萌出遅延であったという報告があります。特に、1歳代での受傷は萌出遅延を招きやすい傾向にあるとされています。
- 埋伏歯(まいふくし): 顎の骨の中に埋まったまま永久歯が出てこない状態です。
- 異所萌出(いしょほうしゅつ): 本来の位置とは異なる場所から歯が生えてくる状態です。
- 歯根形成の遅延: 乳歯の損傷が永久歯の歯根形成を妨げることで、歯根の成長が遅れるケースです。
- 永久歯の欠損: 最悪の場合、永久歯の芽が死んでしまい、永久歯が全く生えてこなくなる可能性があります。
乳歯の外傷は、将来の永久歯の健康に多大な影響を及ぼす可能性があるため、定期的な歯科検診で経過を観察することが重要です。
子供の歯の外傷に関するQ&A|保護者のよくある質問
これまで、お子さんの歯の外傷に関する応急処置、治療の選択肢、将来的な影響など、多岐にわたる情報をお届けしてまいりました。しかし、実際に外傷が起こった際には、具体的な疑問や不安を抱かれることでしょう。この章では、保護者の皆様から特によく寄せられる疑問に、Q&A形式で分かりやすくお答えします。
例えば、歯科治療にかかる費用に健康保険や医療費助成が適用されるのか、小児歯科と口腔外科のどちらを受診すべきか、さらにはお子さんの歯を守るための具体的な予防策といった、いざという時に役立つ実践的な情報を取り上げます。このセクションが、皆様の疑問や不安を解消し、お子さんの大切な歯を守るための一助となることを願っております。
Q.治療費に健康保険や医療費助成は適用されますか?
お子さんが歯をぶつけられた際の治療費は、原則として健康保険が適用されます。これは、虫歯治療と同様に、一般的な歯科診療において事故やケガによる歯の損傷や喪失、あるいは外傷による治療が必要な場合に適用されるためです。そのため、保険診療であれば自己負担は原則3割です。
さらに、多くの自治体で実施されている「子ども医療費助成制度」を利用すると、保険診療における自己負担額がさらに軽減されたり、無料になったりする場合があります。子ども医療費助成制度の対象年齢は自治体によって様々です。主な例は以下のとおりです。
子ども医療費助成制度の対象年齢例
| 対象年齢の例 | 具体的な期間 |
|---|---|
| 18歳まで | 18歳になった日以降最初の3月31日まで |
| 中学卒業まで | 中学卒業年齢(15歳年度末)まで |
| 就学前まで | 就学前まで |
お住まいの市区町村の制度を事前に確認しておくことをおすすめします。
ただし、審美性を重視する治療や、保険適用外の高価な材料を用いる治療など、一部の治療法を選択した場合は自由診療となり、全額自己負担となる可能性があるため注意が必要です。治療内容で不明な点があれば、歯科医師に確認し、納得した上で治療を進めるようにしましょう。
Q.何科を受診すればいいですか?(小児歯科?口腔外科?)
お子さんが歯をぶつけてしまった際、まずどこを受診すべきか迷われる方も多いでしょう。基本的には、「小児歯科」、または普段から通院されている「かかりつけの歯科医院」へご相談いただくのが第一選択となります。小児歯科は、お子さんの治療経験が豊富で、恐怖心を和らげるための声かけや環境づくりにも慣れているため、精神的なケアを含めて安心して任せられるでしょう。お子さんの不安を最小限に抑えながら、適切な処置を受けられる点が大きなメリットです。
しかし、歯の損傷だけでなく、以下のような症状が見られる場合は「口腔外科」が適していることもあります。
- 顎(あご)の骨折が疑われる場合:顔面の腫れ、変形、痛み、噛み合わせの異常、口が開きにくいなどの症状
- 口の中や唇の裂傷がひどく、縫合などの外科的な処置が必要な場合
これらのケースでは、専門的な外科処置に対応できる口腔外科の受診を検討しましょう。
受診に迷われた場合は、まずは自己判断せずに電話で状況を説明し、指示を仰ぐのが最も確実です。夜間や休日の場合は、地域の救急医療情報センターや、自治体のウェブサイトで案内されている医療機関に相談する方法も有効です。緊急時は、無理に専門性を判断しようとせず、速やかに適切な医療機関の指示を仰ぎましょう。
Q.歯をぶつけないための予防策はありますか?
お子さんが歯をぶつけるような不慮の事故を完全に防ぐことは難しいですが、日々の生活の中でリスクを減らすための予防策を講じることは可能です。安全な環境づくりと、お子さんへの適切な指導を通じて、大切な歯を守りましょう。
まず、ご家庭内での安全対策が重要です。床に物を散乱させないようこまめに片付け、お子さんが転倒しにくい広い空間を保つことが重要です。
ご家庭内で推奨される安全対策品は以下の通りです。
| 対策品名 | 推奨される特徴・素材 |
|---|---|
| コーナークッション | 厚さ約8mmのNBR環境保護材料や最大1cmの極厚仕様など、弾力性があり、口に入れても安心な素材。 |
| フロアマット | 0歳〜1歳頃は厚さ5cm以上、1歳〜2歳頃は厚さ3cm以上のEVA素材やウレタン素材。 |
不安定な家具は転倒防止金具で固定するなど、具体的な対策も有効です。
外遊びやスポーツをする際も注意が必要です。公園の遊具を使用する際は、正しい使い方を教え、無理な遊び方をさせないよう見守ることが大切です。特に、接触の多いスポーツを行う場合は、口内や歯への衝撃から守るためにマウスガード(マウスピース)を着用させることが非常に有効です。
お子さんの成長段階に応じて、危険を予測し、適切に見守ることも重要です。つかまり立ちを始めたばかりの時期や、走り回るようになる時期など、行動範囲が広がるタイミングでは特に注意を払い、常に安全に配慮しましょう。
Q.ぶつけた部分の歯磨きはどうすればいいですか?
お子さんが歯をぶつけた直後は、傷ついた歯や歯茎への刺激を避けるため、無理に歯ブラシを当てるのは控えましょう。まずは歯科医師の指示に従うのが基本です。歯ブラシの使用が難しい期間は、口内を清潔に保つために、刺激の少ない洗口液でうがいをするか、清潔な濡らしたガーゼで優しく汚れを拭き取るケアを試みましょう。低刺激タイプの洗口液は、お口の隅々まで行き渡り、殺菌して清潔に保つのに役立つでしょう。
痛みが落ち着き、歯科医師から歯磨きの再開許可が出た場合は、毛先が「やわらかめ」や「超極細毛」の歯ブラシを選びましょう。例えば、「システマ ハブラシ コンパクト 4列 やわらかめ」や「エビス プレミアムケア 歯ブラシ 歯グキいたわる ・6列レギュラー 特にやわらかめ」のような製品は、歯茎を傷つけにくいのが特徴です。ぶつけた歯や歯茎を傷つけないよう、ごく軽い力で優しく丁寧に磨いてください。もしお子さんが歯磨きを嫌がったり、歯茎からの出血が続いたりする場合は、無理をさせず、再度かかりつけの歯科医院に相談することが大切です。
ぶつけた部分の歯磨きと口腔ケアのポイント
| 期間 | 歯磨き | その他のケア | 注意事項 |
|---|---|---|---|
| 直後(歯磨き再開前) | 避ける | 刺激の少ない洗口液でのうがい、濡れガーゼでの拭き取り | まず歯科医師の指示に従う |
| 再開後(許可が出た場合) | やわらかめの歯ブラシで優しく | – | 痛みや出血があれば、再度歯科医院へ相談 |
まとめ:お子さんの大切な歯を守るために、正しい知識と迅速な対応を
お子さんが歯をぶつけた際には、保護者の方が冷静に対応することが何よりも重要です。突然の出来事に動揺されるのは当然ですが、落ち着いて状況を把握することが、その後の適切な応急処置や歯科医院での治療へと繋がる第一歩となります。
本記事では、お子さんの歯の外傷で特に重要な「出血」「歯の欠けや折れ」「ぐらつき」「脱落」といった状況に応じた応急処置を解説しました。
応急処置の例は以下の通りです。
- 出血時:清潔なガーゼなどで5分から15分程度圧迫止血する
- 抜けた永久歯の場合:乾燥させずに牛乳などに浸し、30分以内に受診する
このような初期対応が、歯の再植の成功率やその後の治療結果を大きく左右します。正しい応急処置を知っておくことは、お子さんの大切な歯を守るために不可欠です。
また、見た目に大きな変化がなかったり、お子さんが痛みを訴えていなかったりする場合でも、「大丈夫だろう」と自己判断せず、必ず歯科医院を受診することが極めて重要です。歯の根や歯を支える組織、さらには後に生えてくる永久歯の芽(歯胚)にまで、目に見えない損傷が及んでいる可能性も十分に考えられます。例えば、ぶつけた直後には症状がなくても、時間が経ってから歯の色が変わる(歯髄壊死)といった形で異常が現れることもあります。歯科医院では、X線検査などで歯の内部の状態を詳細に確認できます。そのため、早期に専門的な診断を受けることで、将来的な問題を未然に防ぎ、お子さんの歯の健康を守ることができるでしょう。
この記事が、お子さんの歯の外傷という「もしも」の際に、保護者の皆様が冷静かつ迅速に対応するための「お守り」となることを願っています。お子さんの大切な歯を守るために、適切な知識と行動で備えましょう。